飛行機の除雪にタイムリミット？ホールドオーバータイムとは

冬の空港で飛行機がなかなか出発せずに、「駐機場に戻ります」という機内アナウンスが流れることがあります。

非常にガッカリしてしまいますが戻る理由の一つがホールドオーバータイム（HOT）と呼ばれる、除雪効果の持続時間に関するルールによるものです。

機体に専用の液体をかけて雪や氷が付着しないようにするのですが、その効果には限りがあります。

つまり「時間内に離陸しないと、もう一度やり直し」です。

この記事では飛行機が安全に飛ぶためのホールドオーバータイムと、現場での工夫を解説します。

ホールドオーバータイム（HOT）とは？

ホールドオーバータイム（HOT）とは、防除雪氷液の効果が続くと予測される時間のことです。

この時間内に離陸を始めないと再び雪や氷が機体に付着する可能性があるため、安全のために離陸を中断することがあります。

これは液体の種類や気温、降雪量など、条件よってタイムリミットが変わります。

たとえばサラサラしたした液体は効果の時間が短く、とろみのあるタイプは長くもちます。

ホールドオーバータイムは、防雪氷液をかけ始めた時間からスタートします。

たとえば14時ちょうどに作業を始めてHOTが30分だったとしたら、14時30分までに滑走路で離陸を始めないといけないということです。

作業が長引くと飛行機が動き出せる時間がどんどん短くなってしまうので、現場ではスピードと正確さが求められます。

雪や氷が機体に残ったままだと、うまく離陸できなかったり、思わぬ事故につながる危険があるからです。

そのため航空機の表面がキレイな状態でないと離陸をしてはいけないという考え方があり、クリーンエアクラフトコンセプトといいます。

1980年代には今ほど安全意識が徹底されておらず、実際に雪の影響で起きた事故もたくさんありました。

それを機に国際的なルールやマニュアルが整備され、今ではどの空港でもしっかりと安全確認が行われています。

まずは人の目でも雪が残っていないかの確認が必要で、その一つがパイロットによる目視チェックです。

飛行機の種類によっては翼の根元近くに黒い枠で囲まれた黄色いマークが描かれており、ここの状態を見て除雪作業の必要可否について判断することもあります。

なぜ黒と黄色なのか？

昼間は黒いマーキングが雪の白とのコントラストの関係でよく見えること、夜間は蛍光塗装になっている黄色い部分を懐中電灯で照らして積雪状況を確認するため。

航空会社によっては防除雪氷液をこのマークのある翼の根本から散布開始のルールを採用しているところもあります。

こうすることでHOTと同基準で客室乗務員がすぐに雪の有無を確認できて、安全確認がしやすくなるというわけです。

大雪に限らず台風、地震などで飛行機が欠航して、空港に寝泊まりする人たちの姿をニュースで見たことがあると思います。

大雪の場合は遅延要因が飛行機の除雪だけなく、滑走路の除雪も影響します。

滑走路は除雪作業のため一時閉鎖されることがあり、再開後も着陸機が優先されるため、出発機はどんどん遅れてホールドオーバータイム切れとなります。

さらに現場では他にも様々な問題が連鎖的に発生します。

このように一つの遅れが次々と他のトラブルを引き起こし、現場はまさにカオス状態になります。

大雪の大混乱を回避する対策の一つとして、デアイシングエプロンの活用が有効です。

通常の駐機場とは別に設けられた専用の除雪・防氷処理用エリアで、効率的に複数台のデアイシングカーを稼働させることができます。

冬の空港で飛行機の出発が遅れているとき、その背景には時間との戦いと、乗客の安全を第一に考えた現場スタッフの判断と技術があるのです。

それでは良い旅を。