羽田のJAL機衝突事故が奇跡の全員脱出と賞賛されるすごさ

2024年1月2日、羽田空港で発生した日本航空機(JAL516便)と海上保安庁機の衝突事故は、日本の航空史に残る重大インシデントとなりました。

大規模な炎上事故でありながら、JAL機の乗客乗員379人全員が無事に脱出できたことは「奇跡」と称され、世界中から称賛を集めています。

しかしこの“奇跡”は偶然ではなく、厳しい訓練と現場での的確な判断、そして日頃の安全意識の積み重ねによって実現されたものです。

この記事ではグランドハンドリング経験者の視点から、現場で起きていたことや他人事ではいられない理由をまとめました。


1. 事故の概要

  • 日時:2024年1月2日 17時47分頃
  • 場所:東京国際空港(羽田空港)C滑走路
  • 関係機
    • 日本航空516便(A350型機、新千歳発羽田行)
    • 海上保安庁 みずなぎ1号(DHC-8型機、能登半島地震支援任務)
  • 事故の経緯
    JAL機は管制官から滑走路進入の許可を得て最終進入。一方、海保機は「滑走路手前で待機」という指示を受けていたにもかかわらず、滑走路内に誤進入。結果、両機が滑走路上で衝突し、JAL機は炎上、海保機は大破。
  • 被害状況
    • JAL機:乗客乗員379人全員が脱出成功、機体は全焼
    • 海保機:乗員6人中5人死亡、1人重傷
    • 滑走路の閉鎖により空港全体の運航にも深刻な影響

2. 事故の原因

調査の結果、海保機には明確に「滑走路手前で停止する」指示が出されていたことが確認されました。

にもかかわらず滑走路内に進入してしまった原因は、指示の誤認にあると見られています。

JAL機は正式な滑走路進入許可を得ており、規定通りの運航を行っていました。

つまり認識のズレがわずかでも生じると大事故につながるという、空港運用の厳しさを象徴する事故でした。


3. 全員脱出の奇跡はなぜ可能だったのか

非常口が限られる中での瞬時の判断

事故後、火災は機体中央の主翼・エンジン付近から激しく燃え上がりL2、L3、R2、R3の非常口(中央部ドア)は使用不能となりました。

通常なら避難経路として主力となるドアが封鎖され、使用可能だったのは主に前方2か所と後方左側のドアのみで8か所あるドアのうち3か所しか使えないという非常に厳しい条件

さらにL4ドアは前輪が破損して後部が持ち上がったことで、スライダー(脱出シューター)の傾斜が非常に急な状態でした。

それでもCA(客室乗務員)はL4ドアを開けて脱出ルートとして使う賢明な判断をしましたが、私なら迷うかもしれません。

なぜなら仮にドアを開けた後に使えないと判断しても、乗客が殺到してしまうからです。

そう考えるのは地上係員だった私も緊急脱出訓練を受けたことがあり、あの状況は非常に難しい判断が委ねられる場面だっただろうと他人事には思えないのです。

なお実際に受けた訓練は、こちらで詳しく紹介しています。

この瞬時の判断と冷静な乗客誘導こそが、全員脱出という奇跡的結果を生んだ最大の要因でした。


4. グラハンも使っていた「ナンバーワン」

混雑している時間帯に自身が担当する便のパイロットから「我々の便がプッシュバックできるのは、3番目だそうです」などと言われると、片付けや次の便の準備など作業効率が上がって助かる場面が数多くありました。

結構便利な表現だっただけに、一時的ではありましたが使用禁止は不便だったことでしょう。

この事故は「ナンバーワン」と言われたことで離陸許可が出たと勘違いしたことが原因と言われていますが、だからといって禁止されると支障をきたしそうですね。


5. 他社のグラハンが見せたプロ意識

JAL機から乗客が次々に脱出してくる中、すぐさま駆けつけたのが近くにいたANAのグラハンスタッフでした。

その中で数人の乗客が「トイレに行きたい」と訴えたことを受け、ANAのグラハンスタッフは同社の整備士と連携し、近くに駐機していたANAの小型機を案内

すぐに整備士がコックピットで電源を立ち上げて乗客を案内し、機内トイレを開放するという柔軟な対応がなされました。

ちなみに電源が入っていなくても飛行機のドアは開けられますが、機内は真っ暗でトイレも流れません。

この出来事は後にSNSでは数多くの称賛の声が広がり、空の安全を支える仲間としての強い絆を象徴する出来事となりました。

6. まとめ|安全は“奇跡”で成り立ってはいけない

今回のJAL機全員脱出は、「奇跡」と称されました。

しかしその裏には、日々の訓練と積み上げてきた保安要員としての自覚、そして一人ひとりの賢明な判断力がありました。

そしてこのような悲劇を二度と発生させないようにするために、安全運航を願いたいものです。

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