
操縦席はパイロットにとって神聖な場所であり、特に機長席は長年の訓練と経験を積んだ者だけが座れる憧れのポジションです。
そんな場所にグランドハンドリングのスタッフが座ることがあると聞けば、驚かれるかもしれません。
これは「ブレーキマン」という業務で、飛行機を牽引する際にパイロットに代わって操縦席でブレーキ操作を行います。
ここではコックピットで仕事をするグラハンの仕事を、ご紹介します。
ブレーキマンとは?

ブレーキマンとは航空機の牽引作業(トーイング)の際に、操縦席でブレーキ操作を担当するグラハン業務の1つです。
機体を駐機場から整備エリアへの移動させる際などに、牽引車(トーイングカー)で引っ張ります。
このとき必要なのがパーキングブレーキの操作でトーイング前に解除して、移動完了後に再びブレーキをかけます。

厳密には少し違うのですが車で例えると「パーキングからニュートラルにして牽引し、またパーキングに戻す」作業と似ています。
パーキングブレーキの操作は操縦席でしか行えないため、本来であればパイロットが行う作業ですが、地上作業のたびにパイロットを呼び出すことはできません。
そこで一定の訓練と資格認定を受けたグラハンが操縦席に座り、無線で連携しながらブレーキ操作を担当するのです。
ブレーキマン業務は何をするか
①チェックリストの確認
ブレーキマンとして操縦席に乗り込んだら、まずはチェックリストの確認です。
これはパイロットと同様に機体の種類ごとに決まった項目を順に確認していく作業で、安全な操作のために欠かせません。
②ボタンやスイッチを操作
確認作業が終われば、ボタンやスイッチを操作します。
中には絶対に押してはいけないボタンもあるので、とても緊張感のある作業です。
③パーキングブレーキを解除
準備が整ったら無線でトーイングマンと連携し、パーキングブレーキを解除します。
牽引中は前方に広がる誘導路や周囲を眺めながら、パイロット目線の景色を堪能できる瞬間でもあります。
スピードは着陸後の地上走行よりもゆっくりですが、操縦席から見る空港の風景はまさに非日常そのもの。
グランド無線のモニターも大切な業務

操縦席ではブレーキやスイッチの操作だけでなく、グランド無線と呼ばれる地上走行をする航空機と管制官の交信内容のモニターも行います。
実際に管制塔と交信をするのは、牽引を担当するトーイングマンですが、ブレーキマンも無線を受信状態にしておくことで、周囲の動きを把握しやすくなります。
最初は何を言っているのか分からなくても、経験を積むごとに他の航空機と管制塔のやりとりが耳に入るようになり、「あ、今のは〇〇のことか」と分かってくるのが面白いポイントです。
また万一トーイング車が指示と異なる動きをしていた場合でも、ブレーキマンが無線を聞いていれば異変に気づくことができるため、安全面でも重要な役割を果たしています。
ちなみにトーイングマンと管制官のやりとりは日本語で行われているため、航空英語に不安がある人でも大丈夫です。
あまり大きな声では言えませんが…

時間帯や環境によっては、眠気との勝負になることもあります。
特に春先のぽかぽか陽気の中、日差しが差し込む操縦席はまるで温室のよう。
さらにシートの座り心地も抜群で、低速で牽引される揺れが心地よく、うっかり睡魔が襲ってくることも……。
そんなときは大きな声で歌って持ちこたえます。
地上職にも誇りと夢がある
航空業界を目指す方の中には、「パイロットや客室乗務員になりたい」と思っている方も多いでしょう。
もちろん素晴らしい仕事ですが、飛行機は上空だけで活躍しているわけではありません。
地上スタッフと一緒に支え合うからこそ、空の安全が守られているのです。
その中でもブレーキマンは、地上職でありながら操縦席に関わる数少ない仕事で、グラハンならではの醍醐味です。
私には元パイロット志望の仲間がいましたが、初めて訓練で操縦席に座ったときに感極まっている姿は今でも忘れられません。
おわりに
グラハンという仕事は残念ながらあまり日の目を見ることはありませんが、飛行機を最も間近で支えるポジションでもあります。
さらに機内清掃を除いて基本的に飛行機の外での業務が大半ですが、その中でもブレーキマンは数少ない機内での業務となり、いつもとは違う緊張感もあり誰にでもできるわけではありません。
航空業界を志す方だけでなく、より多くの方に「ブレーキマン」という業務の面白さを知っていただけると嬉しいです。