飛行機の除雪後のタイムリミット|ホールドオーバータイムとは?

冬の空港で飛行機がなかなか出発せずに、「駐機場に戻ります」という機内アナウンスが流れることがあります。

非常にガッカリしてしまいますが、実はその理由の一つが「ホールドオーバータイム(HOT)」と呼ばれる、除雪効果の持続時間に関するルールなんです。

防除雪氷液という専用の液体を飛行機にかけて雪や氷が付着しないようにするのですが、その効果が続く時間には限りがあります

つまり「時間内に離陸しないと、もう一度やり直し」というルールがあるのです。

この記事では飛行機が安全に飛ぶための「ホールドオーバータイム」や、作業現場での工夫を解説します。


ホールドオーバータイム(HOT)とは?

ホールドオーバータイム(HOT)とは、防除雪氷液の効果が続くと予測される時間のことです。

この時間内に離陸を始めないと再び雪や氷が機体に付着する可能性があるため、安全のために離陸をやり直す必要があります。

なお防除雪氷液の種類や気温、降雪量によって、この時間は変わります

たとえばサラサラしたした液体は効果の時間が短く、とろみのあるタイプは長くもちます。


HOTはどこからカウントするの?

ホールドオーバータイムは、防除雪氷液をかけ始めた時間からスタートします。

たとえば14時ちょうどに作業を始めてHOTが20分だったとしたら、14時20分までに滑走路で離陸を始めないといけないということです。

作業が長引くと飛行機が動き出せる時間がどんどん短くなってしまうので、現場ではスピードと正確さが求められます


なぜそこまで厳しく時間を決めるのか?

雪や氷が機体に残ったまま飛んでしまうと、飛行機がうまく離陸できなかったり、思わぬ事故につながる危険があります

そのため航空機の表面がキレイな状態でないと離陸をしてはいけないという考え方があり、クリーンエアクラフトコンセプトといいます。

1980年代には今ほど安全意識が徹底されておらず、実際に雪の影響で起きた事故もたくさんありました。

それを機に国際的なルールやマニュアルが整備され、今ではどの空港でもしっかりと安全確認が行われています。


そもそも飛行機の除雪は誰の指示?

まずは人の目でもしっかりと雪が残っていないかの確認が必要で、その一つがパイロットによる目視チェックです。

飛行機の種類によっては翼の根元近くに黒い枠で囲まれた黄色いマークが描かれており、ここの状態を見て除雪作業の必要可否について判断することもあります。

なぜ黒と黄色なのか?

昼間は黒いマーキングが雪の白とのコントラストの関係でよく見えること、夜間は蛍光塗装になっている黄色い部分を懐中電灯で照らして積雪状況を確認するため。

航空会社によっては防除雪氷液をこのマークのある翼の根本から散布開始のルールを採用しているところもあります。

こうすることでHOTと同基準で客室乗務員がすぐに雪の有無を確認できて、安全確認がしやすくなるというわけです。

HOTが切れるだけじゃない、大雪による大混乱

大雪の日は飛行機だけなく、滑走路の除雪も必要です。

広大な滑走路は除雪作業のため一時閉鎖されることがあり、再開後も着陸機が優先されるため、離陸機はどんどん遅れてホールドオーバータイム(HOT)切れも発生しがちです。

さらに現場では以下のような問題が連鎖的に発生します。

  • 再除雪のため駐機場に戻ると、既に着陸機がいて停められない
  • 急遽用意した新しい駐機場だと、除雪ができていない
  • 地上作業員(マーシャラーなど)が不足
  • デアイシングカーが足りない/防除雪氷液が尽きる
  • 燃料を消費してしまい、再給油が必要
  • 乗員の勤務時間が上限に達する
  • 到着空港の門限に間に合わず、他空港への変更もしくは欠航の可能性も

このように一つの遅れが次々と他のトラブルを引き起こし、現場はまさにカオス状態になります。

「デアイシングエプロン」を活用した解決策

大雪の大混乱を回避する対策の一つとして、「デアイシングエプロン」の活用が有効です。

通常の駐機場とは別に設けられた専用の除雪・防氷処理用エリアで、効率的に複数台のデアイシングカーを稼働させることができます。

デアイシングエプロンについては詳しくはこちらで解説

まとめ

  • ホールドオーバータイム(HOT)は、防除雪氷液の効果が続くとされる予測時間。
  • 時間は散布を始めた瞬間からスタートし、その間に離陸しないとやり直しが必要になります。
  • 飛行機の表面は少しの雪でもNG!クリーンな状態でないと飛べません。
  • 機内からの目視確認や防氷液の散布方法の工夫など、現場ではたくさんの努力が重ねられています。

冬の空港で飛行機の出発が遅れているとき、その背景には時間との戦いと、乗客の安全を第一に考えた現場スタッフの判断と技術があるのです。

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