
最近、雷雲により空港での地上作業中止といったニュースを見かけることが増えてきました。
空港でも「雷の影響で地上作業を一時中止しています」という、アナウンスを聞いた人もいるのではないでしょうか?
自然が相手とは言え出発が遅れるので、不安になりますよね。
また天候によっては雨も雷も見えないのに、なぜ作業を中断するのかと疑問に思う人もいるでしょう。
実は雷は飛行機に直接落ちるリスクだけでなく、地上で働くスタッフにとっても危険が伴います。
今回はなぜ雷で地上作業が止まるのか、航空会社の対応について解説します。
雷で中断される「地上作業」とは?

飛行機は到着から出発するまでに多くの準備が必要で、例として次のような作業があります。
- 手荷物や貨物の積み降ろし
- 燃料給油
- トイレタンクの給排水
- ケータリング(機内食や飲み物)搭載
- プッシュバックや航空機誘導
- パイロットによる外周点検
これらはすべて屋外で行われているため、一定以上の雷雲が接近すると作業が中断されます。
よって飛行機が到着しても雷による作業中断で、手荷物が出てこないこともあります。
なぜ雷で中止するのか?

作業員の安全確保
空港の地上は開けた場所で木や高さのある建物がなく、飛行機に落ちた場合に作業員が近くにいると感電の危険があります。
特にグランドハンドリングスタッフは、貨物室のドアレバーやパネルなど、機体に直接触れる作業を日常的に行っています。
もしこの状態で機体に落雷すれば、作業員が電気の通り道になってしまい、感電のリスクが非常に高いのです。
給油作業中の危険
燃料を扱っていることはもちろんですが、給油作業員もパネルなど飛行機に直接触れるので、同じ基準で中断することとなります。
グランドアースワイヤーで雷を逃がす仕組み
落雷が空港近辺に近づいてくると、 グランドアースワイヤーと呼ばれる長い伝導ケーブルを装着して落雷に備えます。
これにより機体と地面を接続し、雷や静電気を安全に逃がすことができます。
ちなみに給油作業員は静電気除去のために、グランドアースワイヤーの接続は雷雲の有無は関係なく実施しています。
ガソリンスタンドの静電気除去に近いですね。
ただしグランドアースワイヤーがあるからといって、作業員が完全に安全なわけではありません。
落雷の可能性はゼロではないため雷雲が空港上空まで迫ってくると、やはり作業を中断する必要があります。
雷警報のレベル分け
空港では雷の危険度を段階的に管理し、警戒レベルに応じて対応を変えています。
TSと呼ばれる基準で航空会社によって2~3段階に分けられますが、本記事では3段階で解説します。
- TS1(注意)
空港周辺に雷雲が確認された段階。一部作業は制限されるが、基本的に作業は継続。 - TS2(警戒)
空港近辺に雷雲が接近中。グランドアースワイヤーを接続し、警戒の上で作業継続。 - TS3(作業中断)
空港上空で落雷の可能性が極めて高い状態で、すべての地上作業が停止され、作業員は建物内に退避。
→ この段階になると、出発便・到着便ともに大幅な遅延や機内待機が発生する。
TS自体は珍しくありませんが、作業中断レベルでの発令が増えたことにより、飛行機の運航に影響して注目されるようになりました。
地上スタッフはどこに退避する?

作業中断の指示が出ると、作業員はとにかく1番近い屋内へ退避します。
- 空港の建物内 … 金属で覆われているため雷を遮断でき、安全性が高い。
- 車両の中 … トーイングカーや移動車などの車両内は安全。屋根があることが条件。
- 機内 … 搭乗中の飛行機の中も安全。グランドアースワイヤーを接続しているので落雷があっても大丈夫。
- PBB(搭乗橋) … 固定橋の部分は建物と同じ扱いで避難場所として使用可。
雷警報が出た空港の風景

雷雲警報が発令されると、普段は慌ただしいはずの駐機場が一気に静まり返ります。
ラウンジやターミナルの窓から外を見ていると、人影がまったくなくなり、飛行機だけが取り残されたような光景に違和感を覚える人も多いでしょう。
これは作業員が退避しているためで、地上車両の動きもストップし、不思議と時間が止まった世界のように感じました。
上の写真は実際に作業中断となっていた時に、空港のターミナルビルから撮影した写真です。
コンテナを積んでいる途中のようですが、作業員の姿は誰1人と見当たりません。
しかし右下のトーイングカーの車内に人の姿が見えるので、ここに避難していたわけですね。
安全のために致し方ないことではありますが、当然ながら出発は遅れます。
雷の影響はその空港だけではない
雷で地上作業が止まると、影響はその空港に駐機している飛行機だけではありません。
- 出発前の便 … 到着空港が雷で受け入れ態勢を整えられない可能性がある場合、そもそも出発を遅らせることがあります。
- 到着する便 … 上空に到達しても着陸許可が出ず、旋回を強いられることがあります。
また着陸できても駐機場が空かず、機内待機が続くこともあります。
こうした混乱を防ぐために行われるのが フローコントロール です。
フローコントロールとは?
フローコントロールとは航空管制が飛行機の流れを調整し、到着空港が処理できる便数に合わせて出発時刻をコントロールする仕組みです。
つまり、「どうせ到着しても降りられないのだから、出発空港で待たせたほうが効率的」という考え方です。
なおフローコントロールは、こちらで解説しています。
まとめ
雷による地上作業中止は、 「安全第一」 のためのルールです。
- グラハンは飛行機のボタンやレバーに触れて作業しているため、落雷時の感電リスクは極めて高い
- 雷警報は2~3段階で管理され、最大レベルではすべての作業がストップする
- 作業員は建物・車内・機内に退避
- 影響はその空港にとどまらず、フローコントロールによって出発空港にも波及する
不便に感じることもありますが、安全を守るために必要な措置であることを理解しておくと安心です。
それでは良い旅を。